2005/12/09

【Traffic】リニアモーターカー

◎リニアモータを利用した鉄道、と言うと未来的なイメージがあるが、それはひとえに「日本国内で高速の浮上式リニアがいまだ実用化されていないから」と言うのがある。 単純に鉄軌道の上を走るリニア鉄道なら地下鉄でとっくに実用化されているし、低速の浮上式リニアであればリニモが実用化されている。
このリニモ、方式としてはHSSTとなる。 万博となるとその名前が出てくるHSST。 リニモがそうであるように比較的低速の新交通システム的な使われ方がメインだが、過去にはJRのマグレブに匹敵する速度を出したこともある。
一方、中国に目を向けると上海国際空港からの連絡鉄道として西ドイツのトランスラピッドが実用化され、こちらは400km/h以上の速度で突っ走る。
JRが長年研究を続けているマグレブは、試験速度こそ世界最高速581km/hをマークしているものの、未だ実用化の目処は経っていない。

◎マグレブが実用化されない最大の理由はコストの高さにあると考える。 トランスラピッドやリニモが通常の電磁石を利用するのに対し、マグレブは液体ヘリウム冷却による超伝導電磁石を利用するのだ。 勿論コレには理由がある。
磁石間に働く吸引・反発力は磁石間のギャップに反比例して大きくなる。 トランスラピッドやHSSTは磁石吸引力を利用しており、そのギャップは10mm程度だ。 この距離を保つ(ギャップをセンサで測定し、車両側の電磁石の出力をフィードバック制御する)ことで浮上に必要な吸引力とリニアモータの推進力を得ているが、地震大国日本でそんなギャップでは、ひとたび走行中に地震が来れば車両は軌道に激突する。 HSST程度の速度であればいいだろうが、トランスラピッドの速度で激突すればただではすむまい。
このためマグレブは浮上量を100mm程度に取っているが、この距離では通常の電磁石では力不足となり、結果としてその分の強力な磁力を得る為に超伝導電磁石を利用しているのだ。

◎HSSTは軌道側に電磁石でなく非磁性導体を使用した誘導モータ型だが、この方式は効率が悪い。 このためトランスラピッドもマグレブも軌道側も電磁石を利用した同期モータ型だ。 この方式は効率の良さもさることながら、リニアモータの駆動に必要な「極性の切り替え」を、地上側電磁石で行うことが出来る。 つまり車体側の極性切り替えが不要となり、車両を動かす為の制御を全て地上側から行うことが可能になるので、車両側を完全無人化できる。
地上側からて運行状態を全てコントロールできるのは鉄道システムにとっては大きなメリットとなるが、同時に発生するリニア特有の問題として「一つの変電区間に一つの車両しか走らせられない」と言うことだ。

◎地上側電磁石に通電されるのは「今車両がいる場所」の電磁石だけだ。 まさか電磁石1個につき1個の変電所をくくりつけるわけには行かないので、ある一定の数の電磁石をグループ化し、その電磁石グループを一つの変電所が受け持つ。 このためその変電所が担当している区間の中には一つの車両しか走らせることが出来ない(一つの車両に対して電磁石制御を入れると、他の車両がその区間に入ってきても、その車両への電磁石制御ができない)。
駅で待避線を作るとその待避線専用の変電所が必要になってしまうため、コストを抑えようと思うと優等列車の設定も出来ないし、一度には知らせられる列車の数が変電所の数で決まるので、乗客が増加しても増便対応できない。

◎こういった点を考えるとマグレブの国内実用化は非常に厳しいのではないかと思う。 いくら速度を上げたところで速達性では飛行機に負ける(まぁ搭乗等の手続きが煩雑ではあるが)し、そもそもそんな超高速鉄道が必要なほど日本の各都市は離れていない。
上海空港連絡リニアが示すように、「飛行機で移動するには近すぎる距離」の速達性の向上、がリニアの最大の使用用途なのではないか。そう考えるとたとえば成田空港から東京駅まで・・・これは成田新幹線構想か。 でも本当にこれぐらいしかリニアの有効性を活用できる実用化手段が思いつかない。
中途半端な速達性と膨大な建設コストがリニア実用の妨げになる。 世界最高水準の性能を叩きだすJRマグレブは是非実用化してほしいものだが、その日はまだまだ遠そうである。 まさに「未来の乗り物」である。

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