【Sound Works】S90XSインプレ5:まとめ…原点回帰したSシリーズ
◎さて、延々5回に渡って誰も読んでいないのに、そして未来永劫誰も読む事がないであろうのにお送りして来たS90XSインプレ、前回までで一通りのS90XSの機能はナメた(まあプレイバックシーケンサとオーディオ機能は見てないが)ので、今回はまとめで行こうと思う。
◎「プレイヤーズ・シンセサイザー」としてS80から始まったSシリーズ、MOTIFが出る前、S80はかなり欲しいシンセだった。鍵盤楽器然とした風合いと、「演奏する事」だけに絞り込まれた機能、という、当時他には無かった個性が魅力だった。しかし母体がMOTIFに移行してからの2機種…S90、S90ESはなんだかんだ言っても結局「先行のMOTIF+ピアノ音色-シーケンサ」以上でも以下でもない、どこかしら没個性的になてってしまっていた。
◎その点S90XSは単純な「MOTIF XSの後追いモデル」でなく、初代S80への原点回帰的な、他にはないはっきりとした個性を二つの面で持っている。 それがMOTIFから外されたものと、MOTIFから変えられたものだ。
外されたものは…シーケンサは勿論の事、大型のLCDもやめたし、内部エディットも出来なくなった。プラグインボードも廃止され、フィジカルコントロール機能も無くなった。 …と「無い無いづくし」で書くとネガティブだが、これらはどれも「演奏する」ためには全て必ずしも必要の無い機能ばかりだ。 画面なんか見ないし、音色はコントロール出来れば良い。 音が良ければ音源方式なんてどうでもいいし、フィジカルコントロールなんてなのは音楽制作で必要な機能だ。 純粋に「弾いて楽しむ」のなら、煩わしい操作や設定や機能は取り払い、良い音と良い鍵盤があればいい。
◎そしてこれらの「外された機能」はPCの側に移行させ、PCとの連携性が高められた。たとえば音色エディットがPCでのみ行える点、勿論これを嫌がる人がいるのは事実だが、どうあがいたって単体のシンセがPCの持つ表示能力・入力/コントロール効率の高さに勝てる訳が無い。
それならまとめてPCに移行させてしまったほうが本体がすっきりするし、結局作業効率も良くなる。 要は「PCでやったほうが良い事はPCで、本体でやったほうが良い事は本体で」と言う適材適所の思想がはっきりしているのだ。
◎一方MOTIFにないものはそれまでのYAMAHAシンセに無かったナチュラルなピアノ音色、強力かつ実用的なパフォーマンスモードやA/Dインプット、MOTIFとは全く違うレイアウトで専用に用意された操作子、コントロール先を選ばないマスター・リモートモード等、「目や手や耳が演奏に直結する部分」だ。 煩わしさを排除し、いかに演奏に没頭でき、いかにそれを「楽しめるか」という点、今までの「MOTIFの塗り直し」のS90系にはなかった特徴だ。正直、ここまで「弾く」ということを考え抜いて設計されたシンセは無いんじゃないかと思う。
◎そして…何よりも私がS90XSを買って「良かった」と思えるのは、ここまで書いた様な機能面での個性、YAMAHAカラーが持つ音色の個性、落ち着きのあるデザインと佇まいが魅せる個性…と、かつてS80が持っていた「機材」でなく「楽器」としての個性を持ち合わせている点だ。 シンセサイザー…特にデジタルシンセにおいてはどうしてもその機能と出音にばかり目が行って、結果「音の出る機材」と見てしまいがちだが、S90XSに関してはそれ以上に様々な面での個性が強く、他のどの機材と比較しても似ていない。 音源部のベースモデルMOTIF XSとも全く違ったものに仕上がっていて、出音以外は似ても似つかない自己主張を持っている。
「それ」でしか味わえない特徴があり、「それ」でしか味わえない楽しさがある。 それが「音楽を奏でるモノ」なら、それは機材ではなく、立派な「楽器」と呼べるのではないだろうか。