2010/04/09

【Sound Works】s90XSインプレ1:珠玉の音色と操作性

◎念願のs90XSがやってきて,家事も用事もそこそこに弾きまくっている.旧餅を「鍵盤楽器」として認識し出してから、ずーっと欲しかったsシリーズ。 珠玉のピアノと至高のタッチだけでも24万円の価値はあるが、逆に言えばシーケンサーもサンプラーも拡張性も無いシンプルなシンセサイザーである。 しかし音色も機能も、使い込むと結構奥が深い。
今までロードテスト形式での機材インプレなんてやらなかったが、書きたい事が単独エントリでは到底収まりそうにもないので私の気力が続く限りこういった形式でインプレしていこうと思う。(予定は3回)

◎さて、もう何度もこのBlogにも書いてきた,s90XSの最たる特徴「Natural Grand S6」だが,これを始めとしたS6グランドピアノ系の音色だけは別格…と言うか,完全に「音のキャラクターが違う」。 後述する「YAMAHAのシンセの音」をイメージしてるとモノの見事に裏切られ,もはやこれは他社のシンセなのではないかと思えるほどだ.
一番比較しやすいのがプリセット2番,MOTIF XSではプリセット1番を張っている「Full Concert Grand」だろう. Full Concert GrandはMOTIFらしい,派手で明るくクリアな音色だが,Natural Grand S6には殆ど派手さが無く,高域をやや押さえ,響板での「響き」を重視したウォーミーな音色で,最近の超大容量ソフトシンセのピアノに近い,ある意味とても「YAMAHAらしくない」。
勿論一概にどちらがいい悪いとは言えず,あえて二つを分けるなら「再現性のS6,個性のFCG」といった感じだろうか. 要は曲に応じて使い分けることが肝要,ということである.

◎そしてこの2音,BH鍵盤のタッチ・ベロシティ特性とのマッチングが素晴らしく,音色や倍音の変化の破綻が最小限に抑えられている. 実はこの2音,ベロシティスイッチを殆ど使っていないのだ. 8エレメントの強みを生かし,ベロシティ・音域毎に違うエレメントで構成され,それぞれの波形に最適なフィルター・スケーリング設定がされており. ソフトシンセのピアノの多くが波形切替ブレークポイントで全然音が変わってしまったり,隣り合う音階の音が全然違ったり,そもそもMIDIキーボードのベロシティ値と音源側の音量変化が全然マッチしていなかったり,といった「演奏と音色の関係の破綻」がある中,s90XSは極めてスムーズに音色が「つながる」. 単音や作りこんだMIDIフレーズでの聞こえはどうだか知らないが,鍵盤に指を下ろしての気持ちよさはソフトシンセにまったく負けることがない。

◎さて,新規追加のS6以外の音色に関してはどこまでも「MOTIF系の音」である. 特に初代から評判の良い繊細なエレピ, 擦弦音と厚さに特徴のあるストリングス,パワーのあるドラムは特筆モノで,従来弱いとされていた金管・木管・生ギター等もベロシティスイッチ+8エレメントの恩恵を受け格段にクオリティが上がっている.
ただ,以前MOTIF XSを初めて触ったときに書いたことだが,初代MOTIFで確立された「派手でクリアで太さがある」というサウンドキャラクターはだけは8年近くが経過してもほぼそのまま引き継いでいて,聞けば一発で「あ,YAMAHAの音だね」となる. かつて初代MOTIFが登場したときのような「え,これがYAMAHAのシンセ?」という驚きはないが,その分安心できる. それだけにYAMAHAらしさもMOTIFらしさも一切ないNatural Grand S6が一層特異に思えるほどだ.

◎ところでこの「YAMAHAらしい音」…高域の出まくった音ってのは,言い換えると「楽器音をそのまま目の前で聞いたときの音」を目指していると思う. ナニを言っているかと言うと, DTM界隈でもてはやされる音源の殆どは「CDから流れてくる楽器の音」の方向を向いていて,意図的に高域の倍音を削った音色が多いのだ. 殆どの人にとって楽器音を聞くのはCDなのだから,その音がリファレンスになるのは当然で,その傾向をもつ音源でアンサンブルを組めば自ずから気軽に「売り物音質」のアンサンブルは組める.ところが倍音がないのでEQしても一向に効かない.一方でMOTIF系の音はそのままアンサンブルを組むとやったら高域のうるさいサウンドになるが,軽く12~15kHzあたりを軽く落とすだけで一気に印象が変わる. 倍音が多い分,EQの効きがいいのだ.

◎初代MOTIFが出た頃はともかく,今は音源自体にもパートEQがあるし,DAWでパラ録り→EQとやるのにお金も時間もかからない.s90XSにはCubase AIも同梱されているのだから、そこそこの性能のPCと適当なオーディオI/Fさえあれば簡単にパラ録音してのEQの作りこみが出来るのだ。それならわざわざ音源側を「CDの音」にする必要はない。
ステージで使うにしても、これだけ高次倍音がきっちり出ていれば自然と音のヌケも良くなる。 基本ハコってのはギターの爆音ばっかり聞こえて鍵盤の音は聞こえない事が多いからね。
YAMAHAの音を嫌う人が結構いるのも事実だと思うが、きちんとツボを押さえれば、モトが「CDの音」よりもいろんな面で融通が利く、それがMOTIF以後のYAMAHAシンセの音のキャラクターなのだろう。

〜〜〜

◎さて、操作性に関してだが,とかくLCDの小ささが叩かれるが(少なくとも私は)さほど気にならない. どうせ弾いている最中に音色名なんて見ないしねw むしろ,スライダーやノブを動かした際に現在動いている操作子の設定値「だけ」が大きく表示されるのに好感を持った. MOTIF XSの時,画面の情報量が多すぎて何がなんだか判らなかったが,これはとても把握しやすい.
また触り倒しているとs90XSが「演奏すること」を主体に設計していることが良く判る. ことに大型になったノブと,鍵盤から非常に近い位置に配されたオクターブシフト・トランスポート・アサイナブルスイッチの操作性がとても良い. この位置だと,曲のキー変動に合わせて無理矢理キーを変えることもやろうと思えば出来てしまう. (音を止める必要があるが…)

◎それにしても,私が知る限り,オクターブシフトはともかくトランスポーズキーを装備したシンセサイザーはこれが初めてじゃないだろうか. (MIDIキーボード,ならほぼ必須の機能だが…) 演奏系シンセでトランスポーズ? 邪道じゃね? という感じもしないでもないが,考えても見ればギタリストだってカポタスト使って自分の弾きやすいポジションで演奏しているのである. ギターが良くて鍵盤がダメな理由はないだろうw 使ってくれと言わんばかりの位置にあるのなら,使わない手はない. まあそれでもやっぱり原キーで練習はしといたほうがいいと思うけど、手軽にトランスポーズしていろいろな調の曲を自分の指が憶えたポジションで気楽に弾くのはやっぱり楽しい。

◎…と、第1回はここまで。 次回は音作りに必須のエディターの使い勝手と、DAW環境でのマスターキーボード性能について見てみよう。

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