2004/09/04

【Journey】さぬきうどんツアー2004・その9「あたりや」

◎さてラストを飾るのはあの宮武ファミリー「山内」で修行した大将が開き、山内を超えたといわれる高松の名店「あたりや」。 これはもう完璧に僕のリクエスト。
あたりやもなかなか偶然には発見しづらい場所にあります。 何といってもパチンコ屋の駐車場の下ですから…。 場所自体は単純明快。 国道11号の上天神交差点のわき。 目をつぶっていてもたどり着けるところです。

◎しかしいざ行ってみるとパチンコ屋はいつの間にやらフィットネスクラブに変わってるじゃないの!!。 あらー。 でも建物自体は変わっていないし、店もそのままありました。 ちなみにここには車2台で行ったんですが、事情を知らない後ろの車の2名(相方と青年)はすげく不思議そうな目をしてました。 そらそうだ。 あの状況じゃ、誰だってフィットネスクラブに用があると思いますわな。でもそのフィットネスクラブの横を通り過ぎて、地価の駐車場に降りると、その奥にプレハブの建物で「あたりや」はあります。

◎さて店に入ると正面がうどん場とカウンター。 4席のテーブルが6個ぐらいと奥に座敷。 入り口の左側にはガラスケースがあり、これでもかというぐらい大量の天ぷら・おにぎり・いなりが並んでいます。 カウンターにはちゃんと「あつあつ」「ひやあつ」「ひやひや」の文字が。 おお宮武系の雰囲気が漂うのぅ。ひやひやの大を注文し、座敷に席を取り、辛抱しきれんのでちくわ天を取ってガジっとかじると…おお!! ちくわも衣も、この味付けはまさに宮武で食ったソレだ!! これは期待できるなー。

◎ほどなくしてうどんがやってきた。 ここまで読めば判ると思いますが僕は基本的にネギ以外うどんには何もかけない。 ズルっといくと…。おお 間違いなく宮武の血統。。固麺が口の中でプリプリイキイキしているのが非常によく判る。 カドの生きた、活力にあふれた麺だ。 ただ、全体の麺の作りは宮武よりも「田舎臭さ」が取れた感じ。ここは好みが分かれるかな~? んでもってダシはたむらでも味わったような「カツオの残り香が楽しめるダシ」。 うおーこれも俺の好みだ。 既に2杯食って胃袋はそれなりのところに来ているのに、モノも言わずに勢いだけで大を食いました。

◎しかし昼前だと言うのにお客さんは次から次から入ってくる。 家族連れも入ってくる。 パチンコ屋だったころは、きっとパチンコで遊び終えた人とかがゾロゾロと入ってきたりしていたんでしょう。
座敷で水を飲みながら満足感に浸っていると、ふと目に入ったウォータークーラーには「山の水1号」「山の水3号」の文字。 おーい2号はどこなんだw
立地以外で特に怪しい点は無いかと思っていましたが、そこはさすが香川県。 やはり小ネタを忘れない県民性が現れていましたw


大きな地図で見る

◎そんなこんなで足掛け3日間で9軒、一般店に製麺所にS級怪しい店に絶対発見出来ないロケーションの店に、ととにかくいろいろ回りましたが、判っていたこととはいえ、改めて、麺も店も1軒たりとて同じものが無いさぬきうどんワールドの深さを体験してきました。
僕は評論家でもないしグルメな人間でもないのでどこの麺がええとか悪いとかそういう観点では語りませんが、個人的な好みで行くなら「たむら」「あたりや」「赤坂」あたりは非常に印象に残りました。あたりやを以外の2軒はロケーションにもかなりの強烈性を持っているというのもポイントですかねw

◎そして、今回苦しい思いをしながら9軒も回って思った事は、さぬきうどん巡礼ブームの「おもしろさ」は、勿論1軒1軒のうどんの美味しさもあるんですが、普通発見できないような店、観光目的なら絶対通らないような県道をドンドコ走ってうどん屋をめざし、探し回る「ワンダリングの楽しさ」もそうだし、何よりもたむらや赤坂、中北に代表されるような「地元の生活文化に密着したうどん屋」に行き、その地区の日常に触れることで、店にいるその時だけでも「香川の田舎の日常を共有できる」と言う点にあるかと思います。(まぁ、日記にも書きましたけど)

◎観光、ひいてはコンテンツビジネス全般に言えることとして、そのビジネスモデルは「コンテンツの提供者がコンテンツの受領者の都合や要望に合わせていく」のが普通だと思います。だから例えば食べ物に関するコンテンツビジネスは「売らんかな、食べんかな」になって、店の内装をきれいにし、食べ物の見た目をきれいにし、立地を選び、店を便利にし、その分少し値段を上げて、高級感や独自性をアピールしていくのが一般的なものだし、特にそば屋なんかは「和風」をこれでもかというぐらい強調した店作りになっていたりします。 まぁざるそばが普通のプラスチック容器&鉄網に乗って出てくる店なんて聞いた事ないですもんね。

◎でも香川の(うまいと評される)うどん屋の大半は違う。客が集まろうが、知名度が高まろうが、基本的にそのまんま。 山越みたいに店舗拡張をやる店もあるけれど、基本の路線は変えないし、山越自身、結構店の人が楽しんでやっている(商売っ気よりも、自分たちがうどんを提供する事自体を楽しんでいる)のがよく判ります。 観光地化の弊害と言い切ってしまうことは簡単だけど、うどんを作る事、食べてもらう事を楽しんでもらうのはいいことだと思う。 勿論、何もしないで「素のまんま」を楽しめればもっといい。
要は、コンテンツの受領側がコンテンツ提供側の状況を楽しめる、というのが一般的な観光ツアーとは全く異なってる訳です。

◎そんな香川のうどんも今結構変革期を迎えているらしく、若い大将による「人に来てもらえるような一般店」を目指す店も増えたそうです。 もちろんそれはそれで歓迎すべき事じゃないでしょうか。 よくある勘違いとして「素朴な製麺所のスタイルこそがさぬきうどんのあり方だ」と言う意見ですが、それは「原点」であっても、「絶対的なもの」ではないと思うんです。 現に山越は店舗拡張にしたがってうどんの質が落ちたのか? なかむらが小屋をきれいにしてうどんを店側が(ある程度)準備してくれるようになって、店が悪くなったのか?
どっちも答えはNo。 彼らはうどんというコンテンツに付加価値を持たせようとしているのではなく、うどんというコンテンツそのものを楽しんでもらう、そして自分たちもコンテンツを提供する事自体を楽しみたいと言うところから、そういう行動に出ているんだと思うんです。それは若い対象による一般店にしても、極論を言えば「東京麺通団」にしても同じ事でしょう。

◎既存の食べ物系コンテンツビジネスによくある「付加価値を売る」「状況を売る」のではなく、うどん屋のロケーションを、雰囲気を、うどんそのものを、庶民の視点から理屈ぬきで楽しんでもらえる、ぬるくもやさしい空間。 表面は変わろうとも、そういったさぬきうどんワールドの本質が、これからも続けばいいな、と思っています。

0 件のコメント: